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最高裁判所第一小法廷 昭和43年(オ)369号 判決 1969年5月29日

上告人

釘本彦松

外六名

代理人

古賀野茂見

被上告人

本村又助

外一名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

上告代理人古賀野茂見の上告理由第一点について。

仮処分の目的物に関して提起された本案訴訟の係属中に、執行官の保管する仮処分の目的物が執行裁判所の換価命令によつて換価され、その売得金が供託されるに至つた場合においても、その売得金は仮処分の目的物に代わるものとして、その間になお同一性を保持し、本案訴訟の目的物ないしはこれに対する審理の対象たる権利ないし法律関係はなお消滅したものではなく存在しているものと解すべきで、本案裁判所は、換価が行なわれなかつた場合とひとしく、本来の訴訟物たる権利ないし法律関係について審理し、判決するを妨げないものである(最高裁判所昭和三九年(オ)第五八六号、同四三年一月二五日第一小法廷判決、民集二二巻一号一頁参照)。ところで、本件記録に徴すると、被上告人らは、被上告人らにおいて本件山林を共有するものであるが、上告人ら七名外二名が本件山林から松約一〇〇石を勝手に伐採し、他に搬出しようとしたので、被上告人らは、上告人ら七名外二名を相手方として仮処分申請をし、立入、伐採、伐採木搬出禁止等の仮処分決定をえ、右伐採木は、執行官(当時執行吏)の占有保管するところとなつたが、後腐蝕化したので、被上告人らの申請による換価命令によつて換価され、その代金一二万五二〇〇円は供託されるに至つたとして、本件山林が被上告人らの共有に属することの確認と、上告人らに対し右売得金の引渡を求めたことが明らかである(はじめ右伐採木の引渡を求めたが、後右売得金引渡に請求の趣旨を改めた。)。原審は、右被上告人らの主張事実を認めてその請求を容れたものであるところ、前述のように、売得金が仮処分の目的物に代わるものであり、両者の間に同一性が維持されていると考えられる以上、請求は換価前の目的物の引渡を求めてもよければ、売得金の引渡を求めてもよく、主文もこれに対応して、目的物の引渡を命じてもよければ、売得金の引渡を命じてもよいと解して妨げないから、本件売得金の引渡を命じた原判決は相当というべく、上告人らに不能を強いるものとは認められない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第二点について。

所有権に基づく伐採木の引渡請求権は、不可分の請求権であり、その売得金を前述のように仮処分の目的物に代わるものと解する以上、売得金引渡請求権も不可分の請求権というべく、原判決に所論のような違法はない。論旨は、独自の見解に基づき原判決を非難するものであつて、採用に値しない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 岩田誠 大隅健一郎)

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